静かな波に包まれながら、メリー号にゆっくりと夜の帳がおりていきます。
口々におやすみの挨拶を交わしながら皆はそれぞれの部屋に下がります。


「じゃオレたちも行くか」
「そうだな」
ルフィもゾロと連れ立って男部屋に戻りました。


サンジはいつものように明日の仕込みでキッチンに。
ウソップは今夜の見張り番。
チョッパーは島で手に入れた薬を早速調合したいからと、
器具の一式と毛布を持って倉庫に消えていきました。


そんなわけで、今夜この部屋にいるのはルフィとゾロの2人だけ・・・です。
「なーんかオレら2人きりて久しぶりじゃねえ?」
ぽすんとソファに飛び乗りながらルフィがはしゃいで言いました。
「そうか?」
答えるゾロは刀の手入れの最中です。


「そういやオレ昼間これ見つけたぞ」
ルフィは思い出して、ポケットにしまっておいたゾロの黒い手ぬぐいを取り出しました。
山で木の枝に引っかかっていたものです。
「ああ悪ぃ、おまえが持ってたのか。どこで落としたかと思ったんだが」
「大事なもん忘れんな」
黒手ぬぐいは幾多の戦いの中でたまに見られるゾロが本気になった印。
これを頭に巻いたゾロはまさに「魔獣」のように戦いの喜びに目を輝かせ、
どんなに傷つこうとも、ただ高みを目指してどこまでも剣を振るい続けるのです。
生半可な相手にはゾロはこの印を見せません。
己の命をかけるほど強いとゾロが認めた相手にだけ、
ゾロは剣士の礼と覚悟を持って自分に手ぬぐいを巻くのです。
ルフィも本気のゾロと相対したことがあります。
「前にちくわのおっさんたちのいた町で、ゾロと戦ったことあったよな」
些細な誤解から気付いたら、剣と拳、互いに本気を出してやりあっていました。
「ありゃあ、おまえが勝手に突っかかってきただけだろが」
「でもゾロだってマジになったじゃんか」
あの時どんな敵よりも命の危険を感じ、
それが生み出した言い知れない高揚感に、2人して完全に酔っていた気がします。
あれほど近くゾロを感じたことは後にも先にも無いかもしれません。


手ぬぐいを頭に巻いたとき、
ゾロはどこまでも強く、カッコよくなるとルフィは思います。
そんなゾロを一番近くで感じていられる自分を嬉しく思います。
「やっぱゾロ、大好きだ」
つい口に出てしまった言葉に焦ったのか、ゾロが3本の刀を取り落としました。
床に落ちた鞘のカランカランという音が鳴ります。
「…おまえっ、何をいきなり…」
「ん?いきなりじゃなきゃいいのか?」
「…いや、いい」
慌てて拾い集めながら、ゾロが苦笑しています。
その顔を見てルフィはおやと思いました。
ゾロの左頬に一筋、赤い線が走っています。
「ゾロおまえ、そのほっぺどうした?」
ん?と頬に手をやってゾロはああと頷きました。
「昼間、山で木の枝にやられたんだ。そいつを引っかけたときだろうな」
実際たいした傷ではありません。ほんの一筋だし、しかも血はとっくに止まっています。
でもせっかくですから、ルフィはポケットから傷薬を取り出しました。
「さっきチョッパーに貰ったやつだ、塗ってやる」
「いらねえよ」
「遠慮すんな♪」
ゾロは決して遠慮したわけではありませんが、ルフィがそれに耳を傾けるわけもなく、
あっという間にゾロは馬乗りに押さえつけられ、
それはそれは小さな傷口にぺたぺたとたっぷりの薬を塗られる羽目になったのでした。


「おい、てめ…っルフィ…っ!うわっ…ぷ…口に…入って…おい!!」
「何だよゾロ、いいからじっとしてろ」
「おまえ…っ、人のかお…こん…なべたべたにしや…がって!…おい!!」


などと大騒ぎのまま夜は更けていくのでした。
でもこれをナミたち他のクルーが覗いてたとしたら、
おいと抗議しつつもどこか嬉しそうなゾロに、
やれやれと肩を竦めて溜息をつくことでしょうね。


はい、ご馳走様でした。



END








う〜ん、まあまあラブラブエンド…かな?
こんなんじゃまだまだ物足りないわ、と仰る麗しい大人の貴女、
ここだけの話、もうちょっと××なエンディングがあるんですよ〜
更なるハッピーエンド目指して頑張ってくださいvv




なお、この話は最初にここにたどり着いたとご連絡いただいた
せーらむ様に捧げます。
せーらむ様、ご連絡ありがとうございましたv
コンプリ目指して頑張ってくださったそうで、とっても嬉しいですvv