静かな波に包まれながら、メリー号にゆっくりと夜の帳がおりていきます。
口々におやすみの挨拶を交わしながら皆はそれぞれの部屋に下がります。
「じゃオレたちも行くか」
「そうだな」
ルフィもゾロと連れ立って男部屋に戻りました。
サンジはいつものように明日の仕込みでキッチンに。
ウソップは今夜の見張り番。
チョッパーは島で手に入れた薬を早速調合したいからと、
器具の一式と毛布を持って倉庫に消えていきました。
そんなわけで、今夜この部屋にいるのはルフィとゾロの2人だけ・・・です。
「ふわあああ、何かもう眠ぃや」
ぽすんとソファに飛び乗りながらルフィが大きな欠伸をしました。
今日は一日ゾロを探して歩き回っていたので、
体はそうでもありませんが何だか精神的にくたくたです。
「そろそろ寝るか?」
そんなルフィを見てゾロが笑いながら隣にやってきました。
小さな子供をあやすようにぽんとルフィの頭に手を置いて、
自分もソファに腰を下ろします。
ん…と頷きかけたルフィでしたが、ふっと思い出したように顔を上げました。
「あ、そうだゾロ」
そしてポケットをごそごそと探り、ルフィはあるものを取り出します。
「昼間ナミに買ってもらった」
ほら、とゾロの目の前で開かれた手の中にあったのは青いガラス細工の魚。
昼間太陽の下であったときはキラキラと眩しいくらいに光っていましたが、
今は薄暗い船倉の部屋で揺れる淡いランプの灯の下、穏やかな光を放っています。
静かに、深く、海の色を湛えながら魚はルフィの手の中をゆらゆらと泳いでいました。
「綺麗だろ」
「……」
「何か海の中みてえじゃねえ?」
「……」
「オレそんなの見たことないからさ」
「…そうだな」
やや間があって、ゾロがぽつりと答えました。
「昼間、町の店で見つけて、何だかわかんないんだけどすごく欲しくなったんだ」
どうしても欲しくなって、ナミにせがんで買ってもらった。
青い海の中で、しなやかに身をくねらせて自由に泳ぐ魚。
きっと海の中で見る世界はこんな色の光に満ちているのだろう。
最も自分がそれを目にするのは、力を失った体をその腕に抱かれて
永遠の眠りにつく時なのだろうけど。
だから手に入れてみたかったのかもしれない、この青い光を。
・・・ルフィはそんなことを思います。
不意にゾロがルフィからその魚を取り上げました。
「ゾロ?」
「…ったくおまえは」
ぼりぼりと頭を掻きながら、取り上げたそれをテーブルに置き、
「すぐ余計なもんに目ぇ奪われやがる」
そのままルフィを抱き寄せます。
「おまえはオレと」
言葉を切ってちらと上を見上げ
「あいつらのことだけ考えてろ」
「…うん」
触れ合う体の温かさに嬉しそうに擦り寄りながら、ルフィが頷きました。
「ゾロ?」
「ちょっと待てルフィ」
そう言いながらゾロもまたポケットを探り、何かを取り出しました。
そして、とん、とルフィの青い魚の隣に置かれたのは、
昼間の太陽のように暖かな光を放つ、橙色の翼を広げたガラス細工の鳥。
「オレも何だか急にこれが欲しくなってな」
店の前を通りがかり、思わず足を止めたのは橙色のそれが目に留まったせい。
暖かな陽光を思わせる色合いの鳥は、大きく羽ばたき、
それが太陽の陽射しの下、弾けるように身を躍らせて笑うルフィの姿に重なったので。
「おまえが心のどこかで海い青に惹かれてるように、オレもずっと惹かれてんだ」
眩しい、太陽の光に。
正確には、太陽の光のように輝くルフィという存在に。
「もう少しこうしててもいいか」
「ゾロがイヤだって思うまでしてていいぞ…」
「そりゃ困る」
「どうして?」
「朝になっちまう」
真剣な顔で困っているゾロを見て、ルフィがその腕に包まれたままくっくと笑いました。
「そんでもいいな」
実際は仕込を終えて戻ってきたコックさんに蹴散らされるまでなんですけども。
それまで、とりあえずはこうして抱き合っていましょうか・・・ね。
END
ほんわり、あったかエンドでした〜。
この企画には珍しく真面目な展開でしたが、まずまずのエンディング。
でももうちょっとラブラブなのをご用意させていただいていますので
ベストエンド目指して頑張ってください!
なお、この話は最初にここにたどり着いたとご連絡いただいた方
piiiiko様に捧げますv
piiiiko様、受け取ってくださってありがとうございます!
ご連絡いただいてからUPが遅くなってすみませんでした。