「やっと会えたな、ゾロ」
ずっと言いたかったその一言を噛み締めるように口の端に乗せ、
ルフィはゾロを見てにっと笑います。
さっきから顔が緩んで仕方ありません。
探しに探してゾロに会えたことも、
背中合わせで一緒に戦えたことも、
みんなみんなルフィは嬉しくてたまらないんですから。


絡んできた連中は町でも厄介者だったらしく、
再び周りを取り囲んできた人たちが、盛んに2人に礼を言ってきます。
この隙に、と人々は奴らを縄でぐるぐる巻きに縛り上げてしまいました。
「オレらも船に戻るか、船長?」
「そだな」
軽い調子で2人して頷きあい、やれやれと体を伸ばしたルフィは
ゾロの左の肩口にじんわり滲んできた血の染みに気付きました。
「ゾロ、そこ怪我したのか!?」
ルフィに指されてゾロも自身を振り返り、ああと今更のように納得します。
「おまえが来る前にちょっとな」
「何でおまえがやられてんだ!?」
「たいした傷じゃねえ」
心配そうにゾロと傷口の交互に目をやるルフィを促して、
ほら戻るぞとゾロがその肩に手を置きます。
そのとき、
「待ってください」
一人の男がやってきました。
後ろには先ほどゾロが庇っていた女性と子供がいます。
恐らくその夫なのでしょう。
「妻と娘を助けてくださってありがとうございます」
男が深々と頭を下げました。


* * * * *


「大騒ぎしやがって」
むっとしたようにゾロがベッドにひっくり返りました。
「でもそのおかげでタダでメシ食わせてもらえたぞ」
隣のベッドに腰掛けたルフィがにこにこして言います。
ゾロの傷は、あの女性と子供を盾に捕られて動きを封じられた隙に
つけられたものでした。
本人の言うとおり、たいした傷じゃありません。
胸の袈裟懸けや両足首切断寸前の痕に比べたら傷と呼ぶのすら申し訳ないほどです。
でも家族を救われた男はゾロの血を見るなり顔色を変え、医者だ薬だと大騒ぎ。
いくら船に戻れば良い医者がいると言っても耳を貸しません。
とにかくうちの宿へどうぞと引っ張られ、しぶしぶゾロも観念したのは、さすがに
何とか報いたいと躍起になる男の気持ちを無下にはできないことと
是非食事を…と女性が口にするなり、
目を輝かせて話に飛びついたルフィのせいでした。


「まあいいじゃんか、美味いメシだったしな〜〜」
「ああそうだな」
散々飲み食いさせてもらったくせにおまえは…、
とまだ物足りなそうなルフィを見てゾロが苦笑しました。
人の厚意はくすぐったいので、できれば避けて通りたいゾロでしたが、
心底嬉しそうな船長の笑顔が見られたので、それはそれでいいかもしれません。
実際、美味い食事をたらふくご馳走になり、
それに加え宿屋を営んでいる男はこの上等な部屋にもタダで泊めてくれたのです。
それはありがたいと素直に受け取ることにしようと思いました。


「ところでゾロ、おまえ何でそれ手当てしてもらわねえんだよ」
思い出したようにルフィが起き上がりました。
ぴょんと自分のベッドを飛び降りて、ゾロの隣にやってきます。
「これか?さっき消毒した」
酒をちょちょいっと吹きかけただけですが。
「医者だろうが他の奴に触られんのはあまり好きじゃねえんだ」
でもチョッパーにはやらせてるのですから、たいした言い訳にはなりません。
「オレに見せてみろ。ゾロ、ちょっと脱げ」
言うなりルフィはゾロのシャツに手をかけました。そのまますぱんと腕を抜きます。
「大胆だな、おまえ」
いつにないルフィの行動に、ゾロが為すがままにされながら面白そうに見ています。
「茶化すな!…うーん、ちょっと膿んでねえか、これ?」
「いつものこった」
「ところがだ」
じゃーんとばかりに、鼻高々とルフィが見せたのはチョッパーから貰った傷薬。
「これはうちの船医が調合してくれた特製の何でも治せる不思議薬だ。
これをつければどんな傷でもあっという間に治るのであーる」
「そりゃあ助かる。早速やってもらおうか?」
調子をつけた物言いにゾロがくっくと笑います。
「よーし、やってやるからじっとしてろよ」
人差し指にすくい、ゾロの上に馬乗りになると
ルフィは慣れない手つきでぺたぺたと薬を塗り始めました。


ぺたぺた、ぺたぺた…
「おいゾロ…」
ぺたぺた、ぬりぬり…
「おい!」
「あ?」
「それじゃ塗れねえ」
ルフィが抗議するのは最もで、
空いてるゾロの右腕が暇に飽かせて背を撫で回してきます。
背といい、脇といい、尻といい。
そのたびにルフィはくすぐったくて身を捩るものですから、
つい指先が留守になってしまうのです。
「邪魔すんな…ってば」
「感じやすいおまえが悪い」
「なに勝手な…うわっ!」
「おっと悪ぃ、当たったか?」
当たりましたとも。ゾロが確信犯的に立てた膝にルフィの"もの"が。
「おま…っ、今絶対わざと…っ!」
思わず身を屈めてしまったルフィの手からゾロは薬を取り上げます。
「こっちはもういい」
そして手を伸ばしてサイドテーブルにかたんと置きました。
「さて…どうしようか、ルフィ?」
見下ろすゾロの顔はにやにやとルフィの答を待っています。
おそらく自分は今真っ赤になってゾロを見ているのでしょう。
「おまえ…タチ悪い!ぜったい…あ…っん」
とんでもないところをついっと撫でられて、思わず声が漏れてしまいました。
慌てて口を手で押さえます。
もちろんこういうのは初めてではありませんが、いつも思うのです、
こんな女みたいな声を出す自分はちょっとヤバイと。


「オレは構わないんだがな」
ゾロが甘い声を耳元で囁くのは絶対わざとです。
そしてこんな風にそっと触れてくるのも。
ゆっくりと口元を押さえていたルフィの右手が解かれました。
右手首と左の肩をつかまれたまま、すとんと体勢が入れ替わります。
ベッドに横になったルフィの上にゾロ。
これは…そうでしょう。
いつもの…体勢。


「肩、痛いんじゃねえの?」
ルフィが拒否する言葉を吐けるはずありません。
恥ずかし紛れにゾロを労わるふりをして、
でも本当はもっと触ってほしいのですから。
「とっくに治った」
何でも治る薬なんだろ?
そう笑ったゾロが、ルフィの前ボタンを外しながらゆっくり唇を下ろしてきます。
眉に頬に、唇に。
あらゆるところに触れられる感覚に身をぞくりと震わせながら
「効きすぎだ」
かすれる息で笑ったのが、最後の強がりでした。


あとは全て吐息の向こう側…***



HAPPY END








おめでとうございます、これが一番のベストエンド!
(といいつつ、相変わらずの寸止めですみません〜〜〜(逃))
見事ゾロルのお泊り話までたどり着いた貴女、お疲れ様でしたvv
次はエンディングコンプリート目指してみますか?


なお、この話は最初にここにたどり着いたとご連絡いただいた
天野あきら様に捧げます。
天野さま、受け取ってくださってありがとうございました。
翌日のシーツ交換の心配までしてくださってすみません(笑)vv



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