赤い拳



チョッパーは治療しながらもため息をつきつき、ルフィに説教をしていた。
というのも、出くわした他の海賊船との小競り合いで、ルフィが少々無茶をやらかしたからだ。
ルフィの手の甲は、皮がむけて赤いところが滲んで見えていた。
ルフィはいつも拳で戦うので、戦いのあとはいつも手の甲に血が滲んでいた。

「いいか。何度も言ってるけど、あんまり無茶しちゃダメなんだぞ。」

「おう。」

「ルフィは船長なんだからな。一人で飛び出して、危ないことなんかしちゃダメだぞ。みんな心配するんだから。」

「おう。」

そんな風に何度も何度もチョッパーは注意しながらも、たいして本人に効き目はないこともよくわかっていた。
でも言わずにはいられないのだ。
チョッパーは、海賊であると同時に、この船の唯一の医者なのだから。

チョッパーは、ルフィの手当を終えて薬箱を片づけた。
手を動かしながら横目でチラリとルフィを見ると、さも退屈したように、欠伸をしているところだった。

「んじゃ、チョッパー、サンキュー。」

伸びをしながら立ち上がると、ルフィはそのままスタスタと船首の方へ歩き出した。
その後ろ姿を見ながら、チョッパーはまた本日何度目かわからないため息をついた。

「ホントにこの船にいるヤツら、怪我ばっかりするんだな。」

当たり前といえば当たり前である。
彼らは海賊であるからして、怪我どころか、命の保証さえままならないのだから。

「おれがいないときは、一体この船のけが人はどうしてたんだろう・・・」

ふとチョッパーはそんな風に考えた。
そしてまた、自分がこの船にとって必要不可欠な人材であると意識して、顔が火照る。

人は、自分を必要とされることがこんなにも嬉しい。
オマエが必要なんだと言われることがとても嬉しいものだ。

そうして考えてみると、この船にいる全員が必要な存在だ。

ナミがいないと船は進めない。
サンジがいないとメシが食えない。
ロビンがいないと何もわからない。
ウソップがいないと楽しくない。
ゾロがいないと安心できない。


そして、ルフィ。


ルフィがいないと、・・・・・・・


ルフィがいなかったら、おれはこの船にはいない。
きっと、みんなだって同じはずだ。

ルフィに惹かれて集まった、仲間なのだから。
ルフィという求心力があってこその、この海賊団なのだから。

ルフィがいなかったら、おれ達の夢は、きっといまだに夢のままで、こんな風に走り出してはいなかったかもしれない。

ルフィがいなかったら、という思いにチョッパーは少し身震いした。

そんな恐ろしい思いを払いのけようと、頭を軽く振り、
薬箱のふたを閉じてそれを両手に抱え立ち上がった。

歩き出そうと足を前に出した途端、ふとルフィがちゃんといるかどうか確かめたい衝動にかられた。
チョッパーは慌てて振り返る。
するとルフィは相変わらず船首に座っていて、チョッパーはホッと息をつく。

眩しく光る西日がルフィの背を赤く燃やしていた。
その赤く燃える船首の背中を見ていると、先ほど治療したあの赤く血濡れたルフィの拳を思い出した。
ルフィは拳一つで敵と戦い、その手一つで夢を引き寄せ続け、仲間を集めてきたのだ。


初めてチョッパーと出会った時も、ルフィの手は赤く腫れていた。
それはもちろん、ドラムロックを素手で登ってきたためである。
その血が滲んだ凄まじい拳を見て、チョッパーは総毛立った事を思い出す。


拳一つで戦い、拳一つで仲間を得、拳一つで夢を叶えようとする男。

チョッパーは、ルフィのそんな赤く血濡れた拳をとても誇らしく思う。


おれ・・・
おれ・・・
この船に乗って本当に良かった・・・


そう思ったとたん、赤い背中がこちらをグルリと振り向いた。

「おお、チョッパー、オマエすげえなあ!!これ、もう全然痛くねぇよ、ありがとな!」

拳を振り回し、こちらを見ながら笑うルフィ。




・・・・・う、
・・・・・う、
・・・・・う、

「嬉しくなんかねぇぞ、コノヤロがぁ〜!!!!!」





written by hirohiro

subtitle ・・・血濡れた、赤い拳