しなやかな夢



心地よい居眠りを妨げたのは、ルフィの高らかな笑い声だった。
ゾロは甲板で惰眠を貪っていたのだが、不意に眠りの縁から呼び起こされる。

うっすらと目を開けてみると、高い空と眩しい光と、そして赤いシャツが目の中に飛び込んでくる。
何で真上にルフィのシャツが見えたのか、ボンヤリした頭でもう一度よく見てみると、
ルフィがマストにぶら下がり、伸び縮みを繰り返して遊んでいるのがわかった。


ゴムの腕を伸ばし、ブラブラとぶら下がっているルフィを見上げ、
ゾロは全く悪魔の実の能力とは不可思議なものだとつくづく思い、大欠伸をした。

思えば、今まで、特にグランドラインに入ってからというもの、数ある能力者たちを 見てきた。
実際この船には三人の能力者が乗っている。
その三人に対し、初見ではギョッとするような、そんな印象を受けたのも事実。
もちろん、今となってはそれが普通の事と受け入れているのだが。


「おーーーーい、ゾロー!ウソップー!」


楽しそうにビヨンビヨンと伸び縮みしながら叫ぶルフィ。
見張り台からヒョッコリ顔を出したウソップは、

「ルフィ!・・落ちんじゃねェぞ!」

と一声かけて、また見張りを続けるため首をひっこめた。


ゾロは、額に手をかざし、眩しい逆光の中ルフィの様子を見ていた。

ビヨンビヨンと伸び縮みを繰り返す、ルフィの腕を見ていると、
ゴムとは本当によく伸びるものだと、感心する。

ピンと伸びた腕は、その伸びた力をため込み、縮むと同時に
ルフィを身体ごと上へ引っ張り上げる、驚異的な力になる。

引っ張れば、その力でもって縮む。

押しつければ、その力でもって押し返される。

そんなゴムの力は、ルフィによく合っている。

ゾロは、額に当てた左手が少々疲れてきたので、フウと息を吐きつつルフィを眺めるのをやめた。

結局の所、ルフィという男は、折れないということだ。

たとえ血反吐を吐き、はいつくばり、何度倒れ込んだとしても再び立ち上がる。
相手が強ければ強いほど、ヤツの跳ね返す破壊力も強大になっていく。
受ける力が強ければ強いほど、弾く力も強く強く・・・

それはヤツが勝つまで繰り返されてきて、そうやってきたからこそ今ここにヤツはいる。
・・そうしてヤツは勝ってきた。
たぶんこれからも、しなやかに、勝ち続けていくのだろう。

・・・・・・決して折れない。
・・・・何度でも立ち上がってみせる。
それこそがヤツの強さだ。


例えば、風が強く吹きつけて、その力は強大で、木々はうねり枝は折れ時には倒木し大地を丸ごと剥がしていく事もある。
だが、柔らかい幹と枝を持つ木は、風に逆らわずでも従わず、ざわつきながらうねりながらも、
したたかにしなり、決して倒れない。

ルフィを見ているとそんなことを思うときがある。
奴の腕は確かだが、奴の本当の強さとは、拳の力ではない。
相手がどんなにへし折ろうと躍起になっても、奴はしなやかでしたたかで、へし折れないのだ。

ゾロは先ほどのルフィの腕を思う。
なるほど、ゴムを折るというのは、まさしく不可能に近い事だ。




しばらくすると、ルフィが「よっ」と言いつつ甲板へ降り立った。
ふとゾロと目が合う。

ルフィはニヤリと笑うと、「羨ましいか〜」とゴムの腕を見せながら、言う。
ゾロは「誰が」と呆れながら返す。
ルフィは、何が嬉しいのか、アッハッハッと笑いながらくるりと向きを変え、
「おーい、ウソップ、見張り交代してやるよー」と叫びながら、また上へ腕を伸ばし飛んでいってしまった。

「お前にできんのかー???」と抗議するウソップの声と、相変わらず楽しそうに笑うルフィの声が上から降ってくる。

その声を聞きながら、ゾロは、ひどく満足していた。


ヤツは強い。


決して折れない。


その安心感が、この信頼が、こんなにも心地いい。


お前はずっとそんな風であればいい。
しなやかに、たおやかに、そして決して折れることなく前へ進むがいい。

お前が強くある限り、俺はお前を誇るだろう。

お前がお前である限り、俺はお前に従おう。

お前は唯一、この俺が頭を垂れた人間として、俺の中で俺を支配し続けるだろう。



お前は、王にふさわしい。



お前こそ、王にふさわしい。




爽やかな初夏の風が、船を軽やかに前へと進ませる。
ゆっくりと、俺は再び目を閉じる。




・・・・・良い夢が見られそうだ。









written by hirohiro
subtitle・・・しなやかな強さをを持つ、その男にみる夢