10Titles


貪欲なキス

微エロで10のお題

表の10のお題「冷たい」「刻む」に続くパラレルの幼馴染ゾロル第3弾。
一応続き物になってるので、まだの方はそちらを先にお読み頂けると嬉しいです。






隣の県の大きな港に外国の有名な帆船が入港した。
その話を最初に持ちかけてきたのはルフィのほうだった。

「で?」
「見てェ。ゾロ、連れてけ」
予想通り単刀直入な答が返ってきた。
「もう午後だぞ」
「おお」
「着いたらたぶん夕方だ」
「おお」
それが何か、といった不思議そうな顔でルフィは首を傾げる。
やれやれと観念したゾロは、ルフィに見えないところで溜息をつくと車のキーを取り出した。
これから遠距離ドライブだ。
言い出したらきかないルフィが強引なのか、何だかんだ言いつつ断る気がないゾロが弱いのか、
どっちだろうと思いつつ、そういえば昔からルフィの頼みを断れたためしがなかったと今になって思い出した。


ルフィは、ゾロの近所に住む2つ下の幼馴染だ。
2人は物心つく前からの仲で、何をするもの一緒だった仲良しの幼馴染を、実は「何よりも大切なもの」としてずっと一途に思い続けていたのだと、 ゾロがはっきり自覚したのは、この夏のことだ。
自覚した思いは加速度を増してゾロの中で膨れ上がっていき、そしてつい最近、ゾロはルフィに「好きだ」と告げた。
考えてみればいまだにルフィからきちんとした答をもらってないが、それでもルフィは意味深な言葉を口にした。
そしてその後も、ゾロを避けることなくこうして以前と変わらない親しい関係が続いている。
以前と同じというのはゾロにしてみればかなり歯痒いが、それでもこうしてルフィと共に心地よい時間を過ごすことができるのは、 一応思いを受けとめてもらえたと思っていいのだろう。


だが生憎ゾロは健康な、そういう年頃の男だった。
気持ちを自覚した。
それを相手に受け止めてもらえた。
そうなると、更にその次を望んでしまうのが男の性。
もっと傍にいたい、その身に触れたい、抱きしめたい、キスしたい、そして・・・・・・・。
これは男なら誰もが持つ普通の欲求だ(そしてそれでこそ人類の子孫繁栄はある)。
だからゾロだって胸を張って先に踏み出していい・・・のにそれができないのは、 やはり相手が元気いっぱいの真っ当な「男子」高校生だからだろうか。
たった一度勢いで唇を重ねたきり、ルフィの体には一切触れることはなく「清い交際」が続いている。
はあ、・・・内心で何度目かの溜息をついて、ゾロは隣の助手席から外を眺めているルフィに目を移した。


* * * * *

「船が見てェ」
ルフィがそう言い出すのも最もで、何故かルフィは子供の頃から海や船が好きだった。
理由なんてないらしい。とにかくその言葉を耳にするだけでわくわくするくらい、好きなんだと笑う。
さすが、5歳にして大きくなったら海賊になると宣言したルフィだ。
もしも別次元の世界が存在するならば、ルフィはきっと海賊船の船長になって世界中の海を駆けめぐっているに違いない、とゾロは思った。


港に着くなりルフィは停泊中の船めざし、まっしぐらに駆けだした。
うわあ、という感嘆の声が風に乗ってゾロの耳にも届く。
目をキラキラ輝かせ、この日運良く張ってあった帆が一斉に風をはらんで膨らむ様を嬉しそうに見つめている。
潮風になびく黒髪に包まれた頭の下で、ルフィは一体どんな冒険をしているのだろう。
傍らの自分の存在すら忘れたかのような遥かに遠い横顔を、ゾロは少しだけ恨めしく思いで見やった。


「そこに立て。デジカメ持ってきたから船と一緒に撮ってやる」
胸に抱いた嫉妬心に罪悪感を抱きながら、そう声をかけてルフィを今の世界に引き戻す。
ゾロの声にはっとしたようにルフィが振り向き、いいと首を振った。
「写真いらねえのか?」
「ん。いっぱいこの目で見るから」
そう言えばルフィが携帯でもカメラ機能を使うのを見たことがない。
「おれは欲張りだから写真なんかじゃ満足できねえんだ。だから全部をこの目と頭に残しとく」
自分の頭を指差しながらそう言ってにっこり笑う少年に、
ああ、自分はこんな笑顔に魅かれたのだと改めて思い、ゾロは手を伸ばしてルフィを抱き寄せた。


腕の中にすっぽり包み、そのまま唇を寄せようとして
「ゾロ…」
下から聞こえる戸惑った声に我に返る。
頃は夕方とは言え、まだ辺りは明るく人目もある。頭が真っ白のまま、行動だけが先走った自分に自己嫌悪を抱いた。
「悪ぃ…」
ゾロは慌てて手を離し、ルフィから顔を背けた。
「ゾロ」
「なんだ」
「おれ、まだ見ててもいいか?」
「ああ……」
そしてさっきより僅かに距離をおきながら2人は並んで桟橋に立つ。
その間に沈黙を落としたままで。


時折隣を盗み見れば、ルフィは相変わらず船を一心に見つめている。
一方で、すぐその唇に目がいく自分が悲しい。
こいつとキスがしたい。
いくら打ち消してもすぐに浮かび上がってくる欲求。
とはいえ、目の前のルフィをみていると、そんな不埒な思いを抱くことも申し訳ない気がして、ただただゾロは悶々とするばかりだ。
そうこうしているうちに日も傾き、手に余るほどの葛藤を胸に隠したまま、ゾロはルフィを促して帰路についたのだった。


* * * * *

渋滞に巻き込まれたせいもあって遅くなってしまった。
すでに外は真っ暗だ。
もっとも2人で朝帰りしたところでそれを責める母たちでもない。(違う意味でヒナには首を絞められそうだが)
おかげで時間を気にして焦る必要は全くなかったが、行きはあんなに他愛もない会話で盛り上がってたのに、打って変わって静かな 車内はかなり気詰まりでたまらなかった。
今のゾロにはルフィにかける言葉が浮かばないし、ルフィもまた窓から外の景色を見たまま口を開かない。
沈黙が重いが、かといってそれを打破することもできない手詰まりの状態だ。
何でこんなことになったのかと思いながら、それでも時折顔を向ければ窓ガラスに映る、その唇にゾロの心臓は大きく鳴る。


ルフィとキスがしたい。
手を伸ばせば、すぐそこにいる。

ルフィと今すぐキスがしたい。
でもゾロにはその一歩が踏み出せない。


「すっかり遅くなっちまったな」
ようやく絞り出した声はどこか上ずっていないだろうか。
「何か食っていくか?」
珍しくルフィからお得意の「腹減った」が聞こえてこないのを気遣って声をかけた。
「止めろ、ゾロ」
「あ?」
「車止めろ」
ようやく振り向いたルフィの切羽詰った声にゾロは急いで横道にそれて車を止めた。
待ちかねたようにルフィがシートベルトを外す。
「何だよ、ルフ…」
サイドブレーキを引いて顔を上げた途端、身を乗り出してきたルフィに言葉を封じられた。


それがキスだと理解するまでどれくらい時間がかかったろう。
は、と堪えきれなくなった息を吐いてルフィが体を離しても、想定の範囲をはるかに超えた出来事にゾロはしばし呆然としていた。
「ルフィ…」
「……」
「今のは…」
またルフィがゾロに圧し掛かる形で唇を塞がれる。
ただ唇を重ねてくるだけの拙いキスなのに、それでもあまりにもルフィらしいひたむきさに心が震えた。


また息が苦しくなったのだろう。
はあ、と肩を大きく揺らしてルフィが顔を離した。
惜しいようなどこかほっとしたような思いを味わいながらゾロは目の前にあるルフィの顔を見つめる。
「今日だけだからな」
自分の方から人の唇を奪っておきながら、何故か偉そうに肩をそびやかし、ルフィは手の甲で唇を覆う。
何が今日だけなんだと、ゾロにはルフィの言葉の意味がわからない。
怪訝そうなその態度を察して、ルフィがゾロに向き直った。
「おれからキスすんのがだ」
まだ意味がわからずに、ただ呆然と見つめるだけのゾロに焦れたのか、悔しそうにルフィがゾロの両頬をつまんでぎゅっと引っ張った。
「…ててて、よせ、ルフィ!」
結構な力で引っ張られ、思わず声が出てしまった。
「うるせぇ、エロゾロ!」
「エロ…って、おまえ人聞きの悪いこと言いやがって!おれが一体何した!?」
ルフィがむっとした表情を浮かべ、一層むぎゅっと手に力を込める。


「だったらあんな顔してんじゃねぇ!」
「どんな顔だ」
「おれのこと…欲しいって顔だ」
「…………」
唐突なその言葉に、柄にもなくゾロは自分の顔が赤くなっているのを自覚した。
車内が暗くて良かったと思った。
「…あんな…息止まりそうな…熱ィ目でおれを見んな」
「ルフィ…」
「おれもおまえが欲しくなる…」
そう呟いて目を逸らしたルフィはどんな表情をしているのだろう。
視線をさまよわせ落ち着かなげなその顔は、もしかして完熟トマトより真っ赤なんじゃないだろうか。
現金にも今度は車内の暗さが惜しくなった。


「ルフィ…」
そっと名を呼んでみると肩からふっと力が抜けた。
ルフィはいつも自然体だ。全身でまっすぐゾロにぶつかってきてくれる。
今まであれこれつまらないことを考えていた自分が恥ずかしくなるようだ。
だからゾロも自然体に、心のままに動くことにした。
「ルフィ…好きだ…」
素直な言葉が口から出た。
「それ…前にも聞いた…」
答えるルフィの体に手を伸ばし、自分にぴったりと引き寄せる。
「キス…してェ…」
「……」
耳元でそう囁くとルフィの体がぴくっと震えた。
「今日だけは…おまえからしてくれるんだろ…」
ぐっとルフィがつまる音が聞こえた後、ゾロの上に細っこい体が覆いかぶさってきた。
躊躇いがちの唇が、ゆっくりと重ねられる。
ああルフィとキスしているのだと、全身を覆う安堵感にゾロはようやくその事実を理解した。


唇は触れ合ったまま、ルフィの手がゆっくりとゾロの頬を辿る。
それに誘われるようにゾロの手も動き、ルフィの背に回された。
ぴったりと隙間なく体を重ね、固く抱きしめあう。
ゾロの手が僅かに躊躇いを見せながらも、たくし上げたルフィのシャツの中にもぐりこもうとして、
「調子にのんな!」
案の定、怒ったルフィにぽかりとやられ、ゾロは「悪ぃ」と苦笑した。



 -- end --

           

2005-05-23

まるで少女漫画のような展開に恥ずかしくなってきました。
どこらへんが「微エロ」なのか自分でも疑問ですが、 恥ずかしさならきっとエロ以上です。