微エロで10のお題
ログを辿ってようやくゴーイングメリー号は次の島に到着した。
わりと大きな島で、港町もその独特な煩雑さで彼らを迎えてくれた。
海を根城にする海賊家業とは言え、何かにつけて不自由と忍耐を強いられる生活から解放されるのはありがたい。
仲間たちはみな一様にほっとした表情を浮かべていたが、それはもちろんゾロにとっても同じだった。
船が着くのを待ちかねたように、ゾロはルフィを連れて船を下りた。
「ゾロ!」
はやる背にナミが声をかける。
振り向くと小さな皮袋が飛んできて、受け止めたゾロの手の中でちゃりんと音を立てた。
「お金…いるんじゃないの…?」
「……ああ」
戸惑いながら頭を下げると、倍返しだからねと言ってナミが少しだけ困ったような微笑を浮かべた。
ルフィの手を引いて賑わう町の中をわき目もふらず早足で歩く。
「ゾロ…」
引きづられる形で後ろを歩くルフィが呼び止めるが、それに構うことなくゾロはぐいぐいとその手を引いて歩き続けた。
「ゾロ…オレ…」
「うるせぇ」
「やっぱオレ…そんなの無理…」
「黙れ」
この期に及んで躊躇うルフィを、聞く耳は持たないとばかりにぴしゃりとはねつければ、
いつも自信に溢れた船長がらしくもなくしゅんと俯く。
そして2人は町外れで見つけた目的の建物の前でようやく足を止め、その中に消えた。
殺風景な部屋だ。
部屋にしつらえられたソファに腰掛けたまま、ぐるりと辺りを見回してゾロはそんな感想を抱いた。
申し訳程度に壁に絵が一枚掛けられているが、他に装飾品もない真っ白な部屋はこざっぱりしているものの、
何の愛嬌もなくどこか落ち着かない印象を与える。
それは隣に座っているルフィも同じなのだろうか。
好奇心旺盛な船長は、いつもならこんな初めての場所、あっちへうろうろこっちへうろうろと興味深々で動き回ってるだろうに、
今はゾロの横に腰を下ろし、ただじっと身を硬くしている。
「ルフィ・・・」
ゾロの呼びかけは聞こえているのかいないのか、答えは返ってこない。
「…隣に行くぞ」
さすがに気が引けて躊躇いがち手を取れば、ようやく覚悟を決めたらしいルフィがゾロを見上げて小さく頷いた。
正面の壁に掛けられた時計が、時を刻む音だけがやけに耳についた。
「……っ!」
漏れそうになった叫びをルフィが喉で押し返したのがわかる。
ぎゅっと閉じた瞼に滲む涙が
小刻みに震える体が
思わず爪を立ててゾロの腕を掴んだ指先が
そんな全てを通してルフィの衝撃が伝わってくる。
痛いとも言わないし、跳ね除けようともしないが、それでもルフィが全身で苦痛をこらえているのがわかる。
「ルフィ…」
大丈夫かとできるだけ優しく問いかけると、目を閉じたまま頷いた。
そんな健気な仕草に思わず微笑みながら、ゾロはそっとルフィの額を撫でた。
額に触れ、髪に触れ、頬に触れ、優しくルフィを包む。
それで少しでも苦痛から逃れられるものならば。
一方的な解釈だと苦笑し、そうすることしかできない自分の身勝手さを思う。
「悪ィ…」
思わずそう口にしたら、くっと掠れた息を漏らしてルフィが目が笑った。
さっきと位置を変えた時計の針が、時の経過を知らせる。ここにきてから随分と時間が経っていた。
2人はソファに並んで腰を下ろしていた。
ルフィはぐったりと脱力しきってゾロにもたれかかり、一方ゾロはその方に手を回し、
優しく、けれどしっかりとルフィの身体を支えてやる形で。
「もう泣くな」
頬に手をやり上向かせ、覗き込むように顔を近づければ、
「泣いてなんかねえよ!」
ルフィはぐいっと手の甲で目元を擦る。
目も鼻も真っ赤に腫れてはっきりと涙の跡を残しているというのに、そうやって強がってみせる姿が妙に愛しくて
「全くおまえは…」
可愛いよ、とゾロはルフィを抱き寄せ目元に口付けた。
「ゾロ…」
ゾロの腕に包まれたまま、ルフィがいくらか不安そうな声を出す。
「オレ…みっともないとこ見せたな…」
「そんなことないさ」
俯いたルフィの頭に手をやり、ぽんぽんとあやすように軽く叩いてゾロは笑う。
「ま、その内慣れるだろうよ」
「ん…」
ルフィは素直に頷いた。
ゾロはそっとルフィを離すと
「だがな、おまえももう子供じゃねェんだから…」
立ち上がりながら言い聞かせるように声をかける。向こうでルフィの名が呼ばれた。
「歯医者くらいでぎゃーぎゃー騒ぐな」
そしてゾロは、料金を払いに受付へと歩いていった。
-- end --
2005-05-07
やっちまった…(逃走)