short story

　

描写注意

始まりは簡単なものだった。
好奇心旺盛なルフィは、すぐ誘いにのってきた。
何をするか恐らく具体的な知識などないまま、おれの言葉に楽しそうに黒い瞳を輝かせる。
一番の殺し文句は「アイツもやってんじゃねえか」
心酔してやまない赤髪の名前を出したことだろう。
「ホントか、ゾロ？」
驚いて聞き返してきたが、本当かどうかなんておれは知らない。
どうでもいいことだ。

海の上での長い禁欲生活は男の生理にとって思わぬはけ口を要求したりする。
海上を根城にする海賊どもにとって男同士での処理など珍しくもないと聞いていたが、自分には縁のないものと思っていた。
聖人君子を気取るわけではないが、男相手に処理するほど困ってはいない。
溜まれば１人で抜くし、陸に下りたときにでも適当にそういう生業の女を抱けばコトは済む。
…そのはずだった。

はっきり言っておれは男相手に欲情したのだ。
同じ船にいる童顔なガキ。
もちろん胸も尻も貧相で小柄な体型の奴が目の前をちょろちょろする度に、体がずきりと疼いた音を立てる。
ラフな服装から覗く手足を直視できずに目を逸らす理由が、「欲しい」からだと気づくのにたいして時間はかからなかった。

だから誘った。
少しでも嫌悪の顔をみせたら、冗談だと笑い飛ばしてそれきりにしようと思った。
だが、ルフィはのってきた。
それはおれを信用しきっているせいか、その手の知識に疎いせいか。
それも今ではどうでもいいことだ。
結局のところ、ルフィは着いて来たのだから。

夜の航海は闇に支配され、互いの顔さえ良く見えない。
小さなランプの灯だけがほんの僅かな頼り。
食料や雑貨の詰まった倉庫にルフィを導き、ランプを部屋の隅に置く。
「夜見るとこの部屋は全然違って見えるな」
ルフィは率直な感想を漏らした。
日常品に溢れた中でこれから行われるのは非日常的な行為。
おれ達にとってここは明日から違う意味を持った部屋になるというのに、その警戒心のなさに苦笑する。

「で、どうするんだ？」
粉の詰まった麻袋を背に腰を下ろしたおれを、見下ろしながらルフィが首を傾げる。
「まず座れ」
あっさりと従い、おれの前に腰を下ろした。
「つかルフィ、お前はどんだけ知ってんだ？」
「何を？」
「こういうのだ」
腕を引いていささか乱暴に引き寄せれば
「うーん…」
本気で首を捻られ、おれは少しばかり焦る。
もしかして思っていた以上にお子様なんだろうかと、妙な罪悪感に襲われたがもう遅い。
ぴったり体を寄せても抵抗しないルフィにやっぱりやめようと言う気は起きなかった。

「マジに何も知らねえのか」
「悪いかよ」
ゴム体質のせいで弾力のある心地よい肌を撫でながら、顎を捕らえて引き寄せる。
反射的に身を引こうとした抵抗感があったが、それには構わず更に力を入れる。
顔と顔がこれほど近付いたのは初めてだ。
かかる吐息、たったこれだけのことに、おれは自分が興奮を覚え兆しているのを自覚する。
「いいよ、ルフィ。ゆっくり教えてやるから気にすんな」
ニヤリと笑って耳元で息と共に囁きかけると、それに感じたのか腕の中の体が小さく震えた。
「ゾロ…？」
「黙ってろ」
そしておれはその唇を捕らえた。

交わす息のままに倉庫の中が熱く満たされる。
おれの下でルフィは喘ぎ、跳ね、乱れる。
最初のときから数えてもう幾度行われた行為か、数え切れない時をおれ達はここで過ごした。
自分でも驚くことに何度体を重ねても、それに飽きることがない。
最初は硬かった体が、回を重ねるごとにゆっくりと綻んでいく。
それが楽しい。
触ることにも、舐めることにも、挿れることにも、
その一つ一つに恐怖と恥じらいから激しく抵抗する体を押さえつけ、丁寧に証を刻んでいく。
お前が欲しいのだと耳元に囁き続けながら、幼い体を時間をかけて開いていった。

「あ…ん…っ…ぞろ…」
繋がるとき、ルフィは今でも苦しげに息を漏らす。
それが初めてのときの掠れた声を連想させ、今でも全身が快感に震えてしまう。
「イイか、ルフィ…？」
狭さと熱さに持っていかれないように必死で保ちながらゆっくりと動くおれに、 ルフィはふるふると首を振って、きゅっと唇を結ぶ。
女とは違う。受け入れるように作られていない体に無理を強いているだから当然のこと。
挿れた側と違って快感など得られるはずもない。
それでも俺は止めることができなかった。
痛みに支配されながら、それでもぎゅっとしがみついてきた健気さに、錯覚だと思いつつ愛しさを感じ、 歪んだ一方的な欲望だと知りながらルフィの中に全てを叩きつけた。


「痛ェ…」
コトを終えた後の一言目はいつもそれだ。
ぐったりと横たわったまま色気のない言葉をぶつけてくる。
「慣れても結構痛いんだぞ、知ってるかゾロ？」
「野郎の体なんだ、仕方ねえ」
「全部それで済ますのってずるくねェ？」
「ふん、別に嫌がっちゃねェくせに」
おれの言葉にうっと詰まったルフィは、かけてやってた毛布を慌てて引き上げると、目だけ出して睨みつけてくる。
照れているらしいので、面白くなって更に追い討ちをかけてみた。
「結構ヨかったんだろ？お前のもしっかり勃ってたしな」
「ちが…っ…！」
「ちょっと触るだけですぐイってたしたよ」
「そういうのは止めろっ」
ついに毛布は頭まで引き上げられ、ルフィはすっぽりと隠れてしまった。
それでもおれが可笑しくてくっくと笑うのが癪に障るのか
「もう寝る！」
毛布の中から篭った怒鳴り声の後、暫くぼそぼそと文句が聞こえてきたがやがてそれは寝息に変わった。

ルフィは自分から誘いはしないものの、こちらの誘いには大抵ついてきた。
その度におれは一つづつ、ルフィに新たな行為を強いてみる。
最初はその手を導いて扱かせた。
おずおずと触れてくる手は、しかし次には自分から触れてくるようになった。
口に含んで舌を使うことも覚えさせた。
上に乗ってみろと言った。
うつ伏せにさせたまま、向かい合って座ったまま、立ったまま後ろから前から、
あらゆる体位で挿入してもみた。
その度ごとにルフィは羞恥に抵抗を見せながら、だがやがてそれを受け入れる。
元々欲求には貪欲な奴だ。
慣れない行為も知ってしまえば、今度は快楽を追うのに懸命になり、自分から求めるようにもなる。
更なるものを求めてルフィが徐々に変わっていく。
体も、心も。
それを変えているのがおれ自身だと思うと、
真っ白だった奴を調教し思うがままに操っているような如何わしい支配欲に駆られ もっともっと欲しくなる。

「やぁ…っ…ん…ゾ…ロ…っ…」
今もおれの下でルフィが快楽に身を捩る。
昼の光の下では誰も想像付かないような痴態。
それを独占しているという優越感と、今腕の中にある娼婦でも見せないような艶めいた表情が、 おれを追い詰めていく。
「お前はすげェよ、ルフィ…」
「え…な…に？」
「何でもねェ」
言葉をキスで塞いで、おれは再び腰を送り込む。
それに合わせてルフィも自ら動いた。

これは遊戯だ。
おれとルフィのまだ若い欲望に、心が追いつかないまま置いていかれている。
愛しているとか、小難しいことはわからない。
欲しい、ただそれだけだ。
今はまだそれでいいんだろう。
おれ達の航海は始まったばかり、答えを急ぐことはない。
そうだろ、ルフィ？

「あ……あ…」
突き上げればルフィが、高く嬌声を上げ身を反らす。
「ゾロ…おまえ…のこと……もっと…欲し…」
ああ、そうだな。おれもおまえが全部欲しいよ。
「ルフィ…」
求めるその名を口に乗せ、おれはルフィの体をしっかりと抱きしめた。

　-- end --

　　　　　　　　　　　

2003

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