合図と共に2人は獣と見紛うかのような勢いで走り出す。
速さは互角だ。
すぐ横で相手の激しい呼吸の音が聞こえ、それはまだ引き離していないことに繋がり、その焦りは更に加速を呼ぶ。
どちらも、こんなこと・・・と言っておきながらすでに一歩も譲らない真剣勝負になっている。


ほんの100メートルのかけっこ勝負。十数秒でカタが付く・・・・はずだった。
だが。


「ええ〜〜〜〜ちょっとゾロ〜〜〜サンジ〜〜〜!!」
ゴールに駆け込んでも2人がその脚を止めることはなかった。
気迫に圧倒されたチョッパーは怖がって隣のルフィに飛びつき、さすがのロビンも一歩後ずさった。
スタート地点からはナミとウソップの叫び声が聞こえる。
そんな中で、ルフィだけがただ1人、顔色1つ変えることなくじっと目の前を走り去る2人を見詰めていた。

2人は更に加速し走り続けた。
やがて地面の切れ端が視界に入ってくる。
ナミがさっき言っていた崖だ。
その向こうには眼下はるかに広がる海。
だがどちらも脚を止めようとはしなかった。


「崖だぞ」
すでに乱れた呼吸の中で、サンジが声に出した。
「知ってる」
もちろんゾロの息も荒い。
「落ちるぞ」
「そうだな」
「どうする」
「てめえは」
「誰が止まるか」
「俺もだ」


止まらない。止められない。


勝負に勝つだの負けるだの・・・・
ゾロとサンジにとってはもうすでにそんなレベルの問題ではなくなっていた。
2人が走り続けるのは、まだゴールに着いてないからだ。
彼らが彼らの船長と共に目指すゴールはこんなとこにはない、もっと遥か遥か彼方。
地を蹴って、海の向こう、空の果て。
ゴールはどこまでも遠くにある。



後ろで聞きなれた誰かの悲鳴が聞こえた気がしたが、その瞬間2人の脚は地面を離れ空中へと飛び出していた。



一瞬の浮遊感。
空を抱いた気がした。



やがて重力につかまった体が落下を始める。
最初はゆっくりと、次第に加速が付いて・・・・・
それでも胸にあるのは恐怖ではなく奇妙なほどの高揚感。
まだ先を目指すことへの果てしない欲求だ。


同様に横を落ちていくゾロを見ればやはり笑っている。
「馬鹿なクソ野郎だな、てめえは」
「おまえもな、エロコック」
にっと笑いあったその瞬間、ぐっと体が捉えられて落下が止まった。



2人を掴むのは目一杯に伸ばされたゴムの腕。
柔らかく、それでいてその力はとても強く2人を捉えて離さない。
我に返ったサンジは興奮状態でぼうっとした頭を振り、ようやくこの状況を飲み込んだ。
頭上を見上げれば崖上に立つルフィの姿が目に映る。
その背後に雲ひとつない果てしない空を背負ってしっかりと地に脚をつけて立つ姿。
眩しくて目が眩みそうだった。


「遅ぇよ、クソ船長!」
ゴムの腕にゆっくりと引き上げられながらサンジは叫んだ。どこか可笑さをこらえるように。
「ゾロ、サンジ、まだだ!」
そう言ってルフィは笑う。
「ゴールはまだまだ先だ。それまで俺たちはずっと一緒だぞ!!」


「・・・だってよ、未来の大剣豪様」
そう言ってサンジはポケットを探り煙草を取り出した。火を点けずにそれを咥える。
すぐ隣をゾロもまた、ルフィの腕に掴まれてゆっくりと引き上げられている。
「俺たちの決着もそれまでつかねえってことかよ」
「それもまたいいってか」
「俺はごめんだね」
そう言いながら、ゾロもまたどこか楽しげだ。


全てを包み込んで高みへ登ろうとする未来の海賊王。
それを自分だけの手に抱きたいと思うと同時に、その大きさに惚れ込んでいるのもまた事実だから。
「おまえにアイツはやらねえよ」
「奇遇だな、俺もだ」
あるいはそんな苦しくも心踊る状況を楽しんでいるのかもしれない。


崖の上に引き上げられ、2人してどさりと地面に投げ出される。
見上げた目に入るのは満面に顔一面に笑みを浮かべたルフィ。
「ゾロ、サンジ、おまえらナミのゲンコツ覚悟しとけよ」


ししし、と楽しげに笑う船長の姿に、互いに顔を見合わせてそっと肩を竦めた。


= 終 =


ゾロ×サンジSS。
×っても「対決」の意味です。私にあっちの意味のゾロサンは無理だと思います。
でもこれって海賊王になるまで三角関係のまま行くってこと?
ゾロもサンジも生殺し状態ですな。



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2004.11.26