333話その後… <ゾロver.>



窓をあけた途端に、新鮮な風がカーテンを揺らし一気に部屋に吹き込んできた。
いたるところに水路が張り巡らされたこの町は、水面を渡って涼しい風が吹く。
ベッドでひっくり返っている奴の、湯あたりした体を冷ますにはちょうどよいだろうとゾロは思う。





×××





船を下りた。
今まで住処としてきた場所を失い、行くあても無く町に出て、ただの旅人のように宿を取る。
汚れきったルフィを見た宿屋の主人が早く風呂に入るように捲くし立てた。
体を引きずるようにしてルフィが部屋に入ったのを見届けた後、皆はそのまま言葉を交わすことなくそれぞれ別の方向に散った。

疲れきった心身を休ませるために部屋へ行く者。
麦わら海賊団の行く末を案じ情報収集のために街へ出る者。
まだ戻ってこない仲間を待つために外の岬へ歩き出す者。

そしてゾロは酒場へ向かった。
今回の一件をあれこれ考えるつもりは無かったが、このまますぐに部屋で休む気にもなれなかったからだ。
重い、と言って大粒の涙を零していたルフィの姿を思い出すたびに、もやもやとした後味の悪い気分が胸を過ぎる。
いつになくまずい酒を数杯、気休め程度に流し込んで酒場を後にした。



ルフィはもう眠ったろうか。
部屋の前を通ればやはり気になってならない。
様子を伺おうとドアを開けると、ルフィが腰にタオルを巻いただけのほとんど裸に近い格好で床に倒れているのが見えた。
「おい!」
どうしたかと慌てて部屋に飛び込み、くたくたの体を抱き起こす。
こちらに向けさせた顔は赤く火照り、朦朧としながらふにゃんと小さく唸った。
「風呂でのぼせたのか・・・」
ほっとしたのと腹立たしいのとで軽く一発小突いてから、そのままベッドに放り投げた。





×××





吹き込む風に、ルフィがうん・・と身じろぎをする。
額に当ててやった濡れタオルがずれたので直してやったが、まだ目を開かないままうとうとと眠りの中を漂っている。


今日、ルフィは船と仲間を一人失った。
それも最終的には自らが手を下して。


そんな直視せざるを得ない現実からほんの僅かな時間逃れるかのようにルフィは眠り続ける。
今なら少しは気も安らいでいるかと思ったが、眠りながらも軽く眉を寄せ、 いつになく忙しない苦しそうな呼吸を繰り返している。
ルフィの寝顔は今まで何度となく見てきた。
荒っぽい雑魚寝の男部屋でも、甘い余韻の残る2人きりの情事の後でも。
それでもこんな悲しそうな顔は初めて見るとゾロは思った。



ベッドに近づき、髪をかき上げ額に浮かぶ寝汗を拭いてやれば
「ゾロ・・・」
無意識にだろうか、動いた唇がゾロを求めてその名を呼ぶ。
ゾロは返事はしなかった。
ただそれに答えるようにもう一度優しくその前髪を梳き、額にそっと唇を当てる。
そして思い切ったようにルフィの体をうつ伏せにした。
「ルフィ・・・」
耳元に口を寄せ、後ろからそっと囁いた。返事は無い。
「・・・抱くぞ」
ん・・とルフィが呟いたが、ゾロがそれに気を払うことはなかった。



唯一着けていたタオルを取り去り、まだ赤みの残る体に手を滑らす。
ルフィの肌はしっとりとゾロの手に馴染み、互いに慣れた身体なのだと改めてそのことに気付く。
身体のあちこちを探りながら、そういえば最初から後ろ向きで抱くのは初めてだと思った。





×××





「ゾロ・・・!!」
ルフィの意識がようやく覚醒したのは、ゾロが自らをルフィの中に全て埋め込んだ後だった。
「お・・まえ・・・・な・・に・・・やってんだ・・・よ!」
身を捩って向き直ろうとするが、ゾロはそれを許さない。
じたばたと動く頭を押さえつけてベッドに沈み込ませる。
「ちょ・・・や・・だ・・!」
「あっついな、おまえの中・・・」
のぼせた体は芯から火照り、ゾロを今までに無いほど熱く包み込む。
その熱に酔いながらゾロは前に回した手で、ルフィの体の全てを余すとこなく探った。
その手が中心に辿りついたとき、ぐ・・・とルフィの喉が鳴り、こんなときに・・・と微かな声が聞こえて動きが止んだ。




「・・・慰めてる・・・つもりか・・・」
腰を高く上げさせられ、ぎゅっとシーツを握り締めたルフィの手が白くなる。
背後から容赦なく突かれながら、ルフィが切れ切れに漏らした言葉。
「お・・れが・・そんなに可哀相に・・・見えた・・・か・・・ゾロ・・?」
らしくもないその言い方が面白くなくて、ゾロはその頭に力任せに拳骨を一発食らわせる。
「痛ぇ!!」
あっちもこっちもいい加減にしろと、まだ深く繋がったままの体勢で怒鳴るルフィに、あっちもこっちも痛ぇのかと可笑しくなった。



そしてゾロは動きを止めた。
無意識かどうか、咎めるようにルフィの腰が揺れるのに気付かない振りをしながら、 今まできつく体に回していた手の力を緩めて今度はそっと抱きしめた。肩口に唇を這わせれば、ルフィの体がぴくりと震える。
「誰が慰めるかよ」
「だっ・・て・・・」
「俺はいつもと同じだ」
きっぱりとした口調に、は・・・とルフィが息を呑む気配がした。
「おまえを抱きたい、そんだけだ」
今のルフィの表情を見てみたいとも思ったが、今はその時でない気がして止めた。




「迷うな、ルフィ」
“あの時”と同じ言葉をもう一度ゾロは耳元で繰り返した。
「俺はここにいる」
何があっても変わらない事実を改めてその身に刻み込ませるように、 体の隅々を優しい手で触れた後、もう一度深くゾロはルフィを貫いた。
「あ・・・ふ・・・ゾロ・・・」
いきなりの動きについて行けず、ルフィの体が跳ね上がる。声が上擦った。
「ちょ・・・・待・・て・・・」
「待たねえよ」
そしてまた激しい律動が再開される。
ルフィが苦しさを訴える度に更に深く穿ち、幾度も突き上げる。
「ゾロ・・・ゾロ・・・・・」
「慰める必要なんかねえだろ。俺はここに・・・こんなにおまえのそばにいる」
その背をしっかりと抱きしめなおし、その耳に熱く囁き続ける。



痛みか快感か、もしくは未だのぼせが残っているせいか、 すでにルフィの意識は朦朧としているようにみえた。
ゾロの言葉がどれだけ伝わっているかわからないが、それでもゾロは構わず続ける。
「ルフィ・・・聞こえるか・・・・」
「あ・・・・な・・に・・・・?」
律儀に返事を返すルフィに苦笑した。




そして。


「俺の乗る船はお前がいる船だけなんだよ、船長」




熱く・・・けれども淡々とした口調でそう告げる。
改めて言うこともない、当然だと言う響きの込められた言葉にルフィの全身が弾かれたように震えた。
「やっ・・・ぱり・・・ゾ・・ロ・・・慰めてんじゃんか・・・」
くくっと笑って、それきり後の言葉は意味を成さない喘ぎの中に消えた。





×××





「・・・無茶苦茶しやがって・・・」
激しい情交を終え、ぐったりと身をうつ伏せたルフィは 顔も伏せたまま、いまだゾロのほうを向こうとしない。
「いつもと同じだろ」
ゾロの答えは事も無げだ。
「ああ、おまえはいつもそうだな・・・」
ルフィが苦々しげに言うが、その声にもう曇りは無い。
失くした物は計り知れないけれど、
それでも自分自身を責めずに真っ直ぐ立っていていいのだと、
いつでもゾロは傍らにいるのだと、
それをルフィは気づいてくれたろうか。



いつもと同じにゾロはここにいる。
いつもと同じに朝が来るように。
それはどんなに辛い現実があっても、ルフィが信じていい 決して変わることのない真実。





長い夜は明け、もうすぐ朝日が差し込んでくる気配がする。
この宿に屋上はあるかと、背を向けたままルフィが聞いた。
あるだろとゾロが答えれば、じゃ朝日を見に行こうと小さく笑う。
そんな色気の無い会話に苦笑して、ゾロは横たわるルフィの背にもう一度圧し掛かった。
「おい・・・」
「その前にもう一回いいか?」
「馬鹿野郎・・・」
悪態はつかれたが、拒絶の言葉は返ってこない。
「ルフィ・・・」
大切なその名をそっと口にして、ゾロは強くルフィの体を抱きしめた。




= 終 =






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「うしろから抱きしめ隊」様に捧げさせていただいた文です。
これはゾロバージョン。
表のナミの話とはまた別物と言うことで。
実際にこんなことしてる暇があったかと聞くのは野暮というものです、ほほほ★