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〜 出会ったのは運命か偶然か・・ 〜


ふと故郷に咲いていた黄色い大輪の花を思い出した。
今は遠く離れた村に夏になると一面に咲き誇る、太陽の光をそのまま写し取ったような花。
それは今、人の形をとってゾロの前に現れた。
黒い髪、黒い目をした痩せっぽちの少年。
妙に眩しくて、ゾロは僅かに目を細めた。

海軍基地に捕えられ、処刑場に縛り付けられずいぶん経った。
手足は痺れ、腹は極限状態。もう時間の感覚も怪しくなってきた。
こんなところで死ぬつもりは微塵もないが、それでもそろそろヤバイかと思いかけたそんな頃、 その少年は突然にゾロの前に現れたのだ。

・・・いったい何の用なんだ
確かに最初に声をかけたのは自分だが、それでも楽しげに近づいてくる新顔は 朦朧とした頭には鬱陶しくて、思い切りぎろりと睨みつけてやると、
「俺は今、一緒に海賊になる仲間を探してるんだ」
少年は悪びれもせずそう言ってにやりと笑った。

海賊ね・・、とゾロは苦笑する。
仮にも「海賊狩り」と呼ばれるゾロだ。今の時代にそう名のる奴らをいやと言うほど見てきた。
たまに赤髪だの白髭だのと、多少の賞賛を込めて呼ばれる輩もいるようだが、ゾロにとってたいした違いはない。
生活資金を得るための対象、それだけだ。
あえて説明をつけるなら、欲しいものはどんな手段を使っても手に入れる略奪者、ま、要は悪党というところか。

しかし、今目の前にいる小柄な少年(どう見ても自分より年下だ)は見れば見るほどゾロの認識している海賊とは遠くかけ離れていた。
赤い大振りの袖なしシャツに膝丈のジーンズ、あとはゴム草履に、かなり年季の入ってそうな麦藁帽子。
身に着けてるのはそれだけ。剣も銃も持っていない。
ほかに仲間のいる様子もなく、ひょろりとした四肢は大して強靭そうでもなく。
敢えて言うなら、左目の下の古い傷痕が唯一海賊らしくもあるが、そのすぐそばできらきらと光っている大きな黒い瞳と、 何の屈託もない笑顔が残念ながらその"らしさ"を見事にぶち壊している。
そのくせ自分を海賊と名乗って憚らないのが馬鹿馬鹿しくて、却って興味を
引かれた。

最もその後ゾロにとってルフィと名乗るこの少年は、見事に悪党へと一変する。
ゾロの何を気に入ったのか、海賊になれ仲間になれの一点張りで、こちらの反論などまるで聞いていない。
しまいにはゾロの大切な刀を取り返してくるから、それと引き換えに仲間になれと卑怯な交換条件まで持ち出す始末だ。
滅茶苦茶な理屈だ。子供以下だ。
あまりに一方的な物言いに半ば呆れながら、それでもそのとき確かにゾロは楽しくてたまらなかった。
お世辞にも愛想のいいとは言えぬ自分を、その目はまっすぐに見つめてくる。

「知るか!俺はおまえを仲間にするって決めた!」
拒否されることなど考えてもいない表情。
世界はてめえを中心に回っているってか、
面白い奴だと思った。
目の前の子供以下の相手に心が湧き立つ。
こんな感情は初めてだと思った。

一斉に銃口が向けられた。
死の予感がよぎり、まだ遠くに霞んだままの野望に歯噛みする。
そんなゾロの前に再びルフィが現れた。
躊躇うことなく銃弾の前に身を置いて見事それを弾き返す。
「・・てめぇ一体何者なんだ!」
目の前の信じられない存在にゾロは思わず叫んでいた。
ルフィがゆっくりとゾロに振り向く。
「俺は海賊王になる男だ!」
そしてまたにやりと笑った。

身一つですべての銃弾を弾いたルフィに海軍兵たちも流石に肝を潰したらしく、動揺がどよめきとなって聞こえてくる。
その隙に向き直ったルフィにゾロは言葉をかける。
「おまえは誰だ」
一語一語、ゆっくりと、噛み締めるように。

「オレはルフィだ」
「海賊か」
「そうだ」
「俺が欲しいのか」
「そうだ」

痛いほど張り詰めた空気の中で、互いから目を逸らそうともせず交わされた短い会話。
後にゾロはこの光景を思い出す度に苦笑する。
何故ならこのときすでに、この小柄な「海賊」は欲しいものをちゃんと手に入れていたのだから。

ここで死ぬか、仲間になるか
約束どおり刀を取り返してきたルフィは、究極の二者択一を仕掛けてきた。
気を取り直した海軍兵の刃が迫る。
考える時間はいくらもない。

海賊王になるという途方もない夢を平然と口にする少年。
真夏の太陽のような、それに向かって咲く大輪の花のような。
その輝きはぎらぎらとゾロの目を眩ませる。
「お前は悪魔の息子かよ」
憎々しげに、それでも笑いながらゾロは彼の手を取ることを選んだ。
この先それが何をもたらすのか、とは考えもしなかった。
それは今どうでもよかった。

ルフィに解かれた手が自由を取り戻す。
いいぜ、とことん付き合ってやる、
海賊王の隣に世界一の剣豪として立ってやるよ、

そんな未来が本当にいつかやってきそうで。
その予感が何故か妙に嬉しくて、ゾロは刀を咥えたままにやりと笑った。

メガネの少年を人質に取ったバカ息子がルフィに動くなと叫ぶ。
その背後からは斧手を構えたモーガンが迫っていた。
気がついているのかいないのか、ルフィは振り返ろうともせず、バカ息子を殴り飛ばしそのまま一言
「ナイス、ゾロ」
楽しそうなその言葉と同時に、ゾロが切り倒したモーガンが激しい地響きと共に地面に倒れる。

こっちの行動はお見通しというわけか。
ルフィのそれは紛れもなく確信犯の笑顔。
そしてこの後自分が口にするセリフも彼にとっては当然分かっていることなのだ。
だから言ってやる。お望みのままに。


「お安い御用だ、船長」




これが2人の長い長い航海の第一幕。


それは運命と呼ぶには無責任で、でも偶然ではなくきっと必然。
そう・・きっと。


= 終 =   

                  
atogaki
散々書き尽くされたシーンですが、初めての出会いの巻
ジャンプでこのシーンを読んだときびっくりしました
なんだこの2人は!?いきなり作者公認なの!?って
↑頭腐ってます
そして今に至るのでした…


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