甲板V


それはそれはもう賑やかな時間だった。


サンジの声を合図に皆が甲板に集まり、ゾロの誕生パーティーが開始された。
若干引き気味の主役を、本人の意思などハナから無視してど真ん中に座らせる。
まるで生け贄ね、とロビンがくすくす笑った。
ウソップとチョッパーが豪快に花火を上げ、サンジが女性陣の手を借りて甲板に出したテーブルに次々にご馳走を並べていく。


「ナミすゎんやロビンちゃんに手伝ってもらえるなんて光栄だなぁぁ〜〜v」
「バカなこと言ってないで、ちゃっちゃと支度しなさい」


そんな慌しい中にもかかわらず、ルフィは手伝いを免除されゾロの隣でおとなしくしているようナミから命じられた(正直彼に引っ掻き回されたくないというのが他のメンバーの総意だった)。
「いい、ゾロがつまんなそうにしてたらあんたが何とかすんのよ」
「オーケーv」


調子よく返事したものの、料理が運び込まれだしたらそんなのは一気に吹っ飛んでしまう――― それが船長だ。
言いつけられた主役の接待役などどこへやら、次々に並ぶケーキやら肉の塊に顔を寄せ、今にも食いつきそうな距離で目をキラキラさせている。
サンジが喜怒哀楽、いろんな感情を一緒くたにして作った見た目も鮮やかな大ご馳走だ。
船旅では滅多にお目にかかれない贅沢料理にルフィはその前から離れない。
「ゾロー、見ろよこれ、美味そうだぞ〜〜〜vvvv」
「ああ、そうだな」
放っておかれた状態のゾロではあるが、振り向きもせず肉に夢中になっているその様が可笑しいので退屈はしてない。
図らずも、ちゃんとルフィの「接待」を受けた形になっていた。


「さ、これでOK。準備もできたから始めるわよ。ウソップ、もう一回花火お願い」
「まかしとけ!」




花火が上がる。
酒の栓が抜かれる。
コックのお許しがでた。
ルフィの歓声の下、皆料理をほおばる。
一斉に「美味ぇ〜〜〜」の声。
歌う。
踊る。
騒ぐ。


誕生パーティーに名を借りた宴会じゃないのかと、祝われる本人はちらと思ったりもしたのだが、 後から考えれば何かにとりつかれでもしていたかのように、皆は心から笑い騒ぎまくった。




「よう、クソマリモ、おめっとさん。これでまた一歩おまえはオヤジに近づいたわけだな♪」
「・・・・・・」
ニヤニヤと笑う顔を無言で睨み付ける。


「ゾロー、どうだった花火?おれ一生懸命ウソップの手伝いしたんだぞ」
「ああ、綺麗だったぞ。ありがとよチョッパー」
小柄な体をひょいと抱き上げれば、「やめろよーv」と嬉しそうな笑い声。


「ゾロ、なーに顰め面してんだよー。お前主役なんだから飲んでばっかいないでちゃんと騒げー」
「ウソップ、てめぇは飲みすぎだ!」
ふにゃふにゃと絡んできた真っ赤な顔をどつく。


「これはあたしたちからのプレゼントv」
そう言って女性陣が寄こしたのは、以前に寄った島の地酒。ゾロも美味いと気に入っていたものだ。
「2人で飲もうと思って買ったんだけど、ちょうど良いわ、あんたにあげる」
「そりゃすまねえな」
「安くしとくわね」
プレゼントに金取るのか、と突っ込みたくなった。



「で、ルフィ。あんたは?」
宴もたけなわ、相変わらず肉を口いっぱいに詰め込んでいるルフィにナミが尋ねた。 わかりきったことを聞くようなわざとらしさを感じたのは気のせいか。
「あんたはゾロに何してあげるの?」
「要らねえよ」
余計なことは言うなとナミの言葉を遮ったゾロがじろりと睨み付けるが、ナミは一向に怯む様子もない。
ルフィが今日と言う日をどう祝うのかと興味津々な面持ちでその顔を覗き込む。
それは表に出さないだけで他のクルーも同様だったのだが。



「ゾロ」
肉を置いてルフィが振り向く。今日はそう酔っていないらしい。
大きな黒い瞳がゾロを映していた。
「ルフィ」
「ゾロ、誕生日おめでとう!」
「ああ、ありがとよ・・・ってもそんなめでてえもんでもないけどな」
その言葉にルフィはぶんぶんと首を振る。
「そんなこと無いぞ。ゾロが生まれた日だ、最高の日じゃんか!・・・で、俺もプレゼント一生懸命考えたんだけどさ」
「気持ちだけでいい。そんな気を遣うな」

物事に執着しないルフィが金も物も持っていないことはよく知っている。
といって料理を作ったり花火を上げたりなんて特殊技術も持ち合わせてはいないはず。
それなのに何をプレゼントするつもりなんだろうと、ゾロは期待と不安が入り混ぜになった 不思議な気分になってくる。


「日・・・替わっちゃうけど、夜うーんと遅くなったら船首に来い。おまえだけに俺からのプレゼントをやる!」
「ルフィ・・・?」
意味深長な言葉にぎょっとして、妙な期待をしようとする自分を慌てて戒めた。


それなのに
「おいおいルフィ、メリーの船首でなにするつもりなんだ!?」
ウソップが慌て
「あらあら船長さんたら大胆ね」
ロビンがくすりと笑う。
「勿体無いことすんな、もっと自分を大事にしろ」
サンジがその肩を抱き
「ゾロ、あんたから言い出したんじゃないの?」
ナミが疑わしげな目を向ける。
次々に繰り出される流暢な一連のセリフはまるで台本でもあるかのようだ。


「なあルフィ、プレゼントって何あげるんだ?」
無邪気なチョッパーの問いかけに
「内緒だ。ゾロだけにやるもんだからなv」
これまた無邪気にルフィが答え、
「さ、また肉食うぞ。サンジおかわりー!」


すっかり固まってしまったゾロをよそに、ルフィの元気な声が船に響き渡った。







さあ、ルフィのプレゼントは・・・   →   船首へ

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