second step

新しく有能な航海士ナミを仲間に加えた(本人はまだ手を組んだだけだと主張しているがルフィの中ではもうとっくに仲間だ) おかげで、方向音痴2人組の何とも不安だった航海はようやく順調に進むようになった。

ルフィが思っていたとおり海は冒険の宝庫だ。
さっきまで彼らは不思議な島を冒険していた。
奇妙な姿の動物たち。
10年以上も箱に入ったままの気のいいおっさん。
仲間にはできなかったけれどまた会う約束をした。
森の宝は見つけられなかったけれど、見たこともない形をした美味そうな果物をいっぱい貰った。

すごく楽しくて。
すごく嬉しくて。
わくわくしてたまらない。

そのわくわくがつい表に出てしまうルフィだ。
抑えきれない楽しさに思わず体が揺れ、それにつられて小さな舟のへリにかけた手が自然にカタカタと動いてしまう。
「静かにしなさい」
隣を進むでかっ鼻の帆を掲げた一回りほど大きい船から涼やかな声がして、いつまでも落ち着かないルフィを嗜めた。
「まだ寝てるでしょう、うるさくすると起きちゃうわよ」
進路を確認する双眼鏡から目を離し、そう言ってナミがゾロを指した。
ちゃんと休ませてあげなさい、と言う。

ナミと出会った島を出てからずっとゾロは眠り続けている。
ルフィたちはその島で謎の赤鼻男率いる奇妙な海賊団との闘いに巻き込まれ、 そこでゾロは体をバラバラにした赤鼻に、卑怯にも後ろから刺されて大怪我をした。
とはいっても酷い深手になったのはその腹を更に自分で掻っ捌いたせいだ。
そこまでしなくてもいいだろうに、思いっきり刀で切り裂いてからハンデだと言ってゾロは笑った。
自分で自分を窮地に追い込むなんてそう簡単にはできないことをゾロはいとも容易くやってしまった。
驚いたけど、ルフィはそんなゾロをすごくカッコいいと思った。

「あんた、ほんとにバカじゃないの」
勘違いした島の人々に追われて、大慌てで逃げ出した海の上。
ゾロの腹にぐるぐると包帯を巻きながらナミが呆れたように言い、ゾロがうるせえとだけ答えた。
多少医療の心得のあるナミがいてくれてよかったとルフィは心底思う。
ルフィ一人ではゾロの傷をどうにもできなかったろうし、恐らくゾロも消毒と言って酒をぶっ掛ける程度ですませていただろうから。
そんな不安が顔に表れていたのだろうか、ゾロがルフィを見て苦笑する。
「んな顔するな。大丈夫だ、寝りゃあ治る」
そうだな、ゾロは強いから。
そう言ったら唇の端を上げてにやりと笑った顔を返してよこした。

それ以来言葉どおりゾロはよく眠る。
大丈夫だと言った言葉に嘘はないと信じられるから、命に別状ないはずだけれど、 全然目を覚まさないゾロに少しだけ不安にかられた。
自分で切った腹はやはりかなりの深手のようでまだ時折苦しそうな息を吐く。
だからさっきの島でも一緒に冒険ができなかった。
ルフィが起こそうとしたら「あれでも一応怪我人だから」とナミに止められた。
大怪我をしているゾロと一緒にいられないのは仕方ないと、いくらルフィでもそれくらいのことは分かる。
・・・なのに・・・どうにも面白くなかった。

奇妙な島での冒険。
何でゾロはいなかったんだろう。
あんなにたくさん面白いことがあったのに。
それが今になって悔しくてたまらない。

豚とライオンが混ざったような動物がいた。
あのおっさんは何十年も箱に入ったままだった。あの島で一番珍獣みたいな面白いおっさんだった。
そんなのゾロは見たことあるか?
もったいねえな、何で見なかったんだよ。
だんだんとルフィの中にざわざわした思いが湧き上がってくる。

ゾロと一緒に見たかったことがたくさんあった。そこで感じた「わくわく」はあとから話したってきっと伝えきれない。
ゾロと一緒のとこを歩いて一緒の空気を吸って。
ゾロと同じものが見たかった。
へぇとかふーんとか、ゾロがつまらなそうな返事を返しながら、それでもその瞳が楽しそうに光るのを感じていたかった。
それなのに。
何でゾロはいなかったんだろう。


ゾロと一緒にいろんなことがしたい。
早く起きろよゾロ。 
おまえは俺の仲間なんだろ。

さっき窘められたばかりなのに、ルフィの手は無意識のうちにまた船べりを握ってカタカタと揺すっていた。
あ、と気付いたけれどこれでゾロが起きるなら却って嬉しいとさえ思って、ルフィはそのまま手を離さなかった。
「子供ね、あんたは」
それを見ていたナミがふっと笑った。

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post script
2人旅にナミが加わりました。2人の関係も次の段階に進みます。
それにしても何を今さら原作に沿って進めているんでしょうね、私も。


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