誕生日と言う言葉は知らないわけでも、忘れていたわけでもない。
実際毎年自分に誕生日が来る度に意識の中には上ってきていた。
もちろんいくつになったかはいちいち数えてなかったが、誕生日が来るとほっとする。
光も見えない人生の終焉がまた一歩近づいたのだと言う安堵の思いが訪れるので。
だが今日、ロビンは新鮮な思いを味わった。
「ゾロの誕生日だー!」
彼女をこの船へと導いた強固な意志と力強い目の輝きを持つ船長が、
今度は信じられないほど満面の笑みで嬉しそうにはしゃぐ。
その彼に煽られたか、皆も次々にこの事態に賛成し、
この小さな船は(祝われる本人を除いて)ちょっとしたお祝い騒ぎ一色となった。
いつもこうなのかとふと口にしてみれば、
「俺は自分のなんて忘れてたぞ、ちぇ、今度は絶対俺もパーティーしてもらうんだ!」
船長が口を尖らせる。
「おお、そうしろそうしろ。とびっきりのご馳走作ってやるからよ」
人に食事を作ることにかけては決して労を惜しまないコックが楽しそうに笑った。
そんなやり取りにどう答えを返せばいいのか、戸惑っていると
「ロビンもちゃーんと自分の誕生日は言えよ。皆でお祝いするんだからな!」
屈託のない笑顔で船長が笑いかけてきた。
「え・・私は・・・」
「あ、でもゾロみたいに急に言ったらダメだ。時間がないとサンジがたくさんメシ作れないだろ」
「結局てめぇはそれか!」
振り下ろされたサンジの蹴りをかわしながら、ルフィが嬉しそうにキッチンの中を逃げ回る。
お陰で、全員準備の邪魔だとサンジに追い出されてしまったのだが。
「変わった人たちだこと・・・」
ぱらぱらと手元の本を捲りながら思わず呟いてしまった。
仲間の誕生日をあんな嬉しそうに祝う海賊なんて聞いたことがない。少なくとも自分が今まで見てきた中では。
誕生日なんて死への道をまた一歩進んだに過ぎない・・・そう思っていたけれど、
彼らの姿を見ているとそうでもないのかもしれないと言う気がする。
ああ、そういえば・・・
ロビンは改めて本を見た。
古びて茶色く変色した表紙に、かつては光っていただろう金色の箔。
−考古学―
と銘打たれたその本は、遠い昔の幼い頃、父が誕生祝だといって買ってくれたもの。
由来はすっかり忘れていたけれど、どんな状況になっても無意識のうちに必ず持ち歩いていた一冊の本は、
確かに自分にも「喜べる誕生日」があった証。
「あの剣士さんにも誕生日があったのね」
俺はまだお前を信用しちゃいないのだと、いまだにロビンには険しい顔しか見せてこない彼と、
そんな彼を思いっきり祝おうとする他の面々。
そのギャップを思うと、思わず笑いがこみ上げてくる。
「私もお仲間に入れてもらおうかしら・・・」
本の表紙を撫でながら、楽しそうにロビンは呟いた。
全部回った方は甲板へ