好きだとルフィが口にしてきたのは何回目だろうか。
そしてそれに俺もだと答えるのも。
何気ないやり取りの中にどれだけの想いが凝縮されているのかも知らないで、ルフィは簡単にその言葉を告げてくる。
いつでもその瞳の奥に挑むような光を湛えながら。
「好きだよ、ゾロ」
「ああ、分かってる。サンジも・・ナミもだろ」
「それからウソップもチョッパーもロビンも・・・あーもう言い切れねえや」
要はみんな「好き」なのだ、ここにいるこの世の全てを手に入れた海賊王は。
傲慢で、我が侭で、まだ欲しいもの全てを手に入れたがるルフィ。
ゾロをずっと捕らえたまま離そうとしない、そんな彼が憎らしくもあり、愛しくもある。
ゾロは再びルフィの頭に手を置いた。
こうして触れていると、彼との10年間が様々に脳裏をよぎる。
胸躍るような冒険、互いの命の危機に心臓が凍りつきそうになったこと、
行く先々で重なり深まっていく絆・・・
だがそんな思いをゾロは慌てて頭を振って追い払った。
こんな風に昔に浸るのは好きではない。
ルフィがこれからヤバイ事態になると言ったので、少し気持ちが高ぶったのか。
それにしても縁起でもない、と嫌な気分になる。
「ほら、マジにもう寝ろ」
自分の中の不快感を悟られないように、できるだけ声を抑えてルフィを促した。
ばさりと髪を揺らしてルフィが起き上がる。
顔を俯かせ体を丸めた姿から、ゾロは何か強く自分に向けられたものを感じる。
「ルフィ・・?」
「ゾロ・・、おまえ今日はここにいろ」
「ル・・」
「船長命令だ」
ぴしゃりとした口調は、ゾロがその言葉に決して逆らわないのを知っている。
「横暴だな、船長」
「今日の俺はおかしいんだ、いつもの俺と思わなくて良い。だから・・・」
ルフィの腕が伸びてゾロに触れた。その熱さに眩暈がしそうだ。
「ゾロ・・俺は・・・」
ルフィの声が震えている。
ゾロはその頬に手をやると、俯いたままの顔をゆっくりと上げさせた。
濡れたように光る大きな瞳にじっと視線を合わせる。
「おまえ、俺にどうして欲しいんだ」
「教えねえ、ゾロが自分で考えろ」
まるで子供が駄々をこねるようにぶんぶんと首を振った。
髭まで生やした男のすることには思えない相変わらずの幼い我が侭。
恐らく自分でも何が言いたいのか分かっていないのかもしれない。
ちっと舌打ちしてゾロはルフィの頬にやった手に力を込め引き寄せた。
痛・・と微かにルフィが呟いたが敢えて無視する。
「せっかく俺が気を遣ってやったのによ」
「どこがだ」
「これから忙しくなる船長を早く休ませてやろうとしたじゃねえか・・・でももう知らねえ」
「ゾロ・・・」
「お前から誘ったんだ。今夜は寝かさねえぞ、覚悟しろ」
「おう」
にやりと、本当に嬉しそうにルフィが笑ってゾロに手を伸ばした。
毛足の長い絨毯は暖かく2人の裸身を迎えてくれた。
久しぶりに触れた体は、しかし昔のまますぐに馴染んだ。
体に増えた傷を互いに辿り確認しあいながらくすくすと笑う。
「ドアがねえんだ、あまり大声出すとナミが飛んでくるぞ」
彼女は今も必死になって船の航路を検討しているはずだから。
少しだけ申し訳ない気にもなったが、それは敢えて頭から振り払いゾロは今はルフィとの行為を優先させることにする。
「じゃあ、ゾロが手加減しろ」
「今更できるか、馬鹿」
こんな軽口ですら心躍らす一つの材料。
こうして2人だけでいることがこんなにも安らげるものだったと、改めて知る。
ルフィの首筋に唇を落とし少しきつく吸えば僅かに息を漏らした。
「ゾロは最初から俺といたんだよな」
「ああ・・」
「最後までいてくれんのも、きっとおまえなんだろうな」
「かもな・・」
いつまでも話を止めないルフィに、もう黙れとゾロはその唇を吸う。
「・・・すき・・・だぞ・・・ゾロ・・・」
息を継ぐ合間に漏れるうわ言のようなルフィの言葉に体を熱くしながら、もうゾロはそれに答えはしなかった。
代わりにその体に、指で、唇で、しっかりと答えを刻み込んでいく。
夜明けまではまだもう少し。