火の気のない倉庫にこもり、盛大に打ち上げる花火を作ると言うウソップに頼まれた火薬を調合する。
火薬は扱ったことないけれど、取り扱いにさえ気をつければ薬の調合と大差はない。
自分にも出来ることがあって本当に良かったとチョッパーは思った。
実際怪我人多発のこの船で船医としてこれ以上ない重要な役割を果たしているチョッパーなのだが、自分ではそうと気づかない。
守られているばかりだと思ってしまっているのが悲しい彼だ。
この船に乗って以来、チョッパーは他のクルーのすごい姿ばかりを見続けてきた。
最高の料理を出す闘うコック。
間違いのない航海術で船を進めるしっかり者の(ちょっと怖い)航海士。
器用に船の修理をこなす名人級の狙撃手。
チョッパーの次に仲間になったロビンは強いし博識だ。
そして・・・あの2人は強い。
この船の船長とその相棒の剣士。
彼らは闘いになったら絶対に負けないし、何よりも自分の信念を曲げない。
そういろんな意味で「強い」。
それは最もチョッパーの憧れるところだ。
チョッパーはゾロが好きだ。
最初は、いつも怒ったような顔で口調も乱暴な彼がおっかなくて傍に寄れなかったけど、
分かってしまった。
“でっかくなるな、引っ張ってやらねえぞ”
“ちゃんとしねえと洗ってやらねえぞ”
そう言いながら、でもゾロがそうしてくれなかったことはないってことを。
ゾロはいつだって最後までチョッパーの方を向いてくれている。
日頃から鍛錬に明け暮れるゾロの手は硬くてごつごつで、
でも同時にとても暖かいのをチョッパーは知っている。
大きな手がふわりと下りてきて頭を触られると何故だかほっとする。
きっとドクターの手と同じせいだろうと思う。
研究を繰り返していたドクターの手は薬品のせいで酷く荒れてざらざらだった。
でもその手で優しく撫でられるとチョッパーは嬉しくなったのだ。
それは信念を一杯に込めた手だから。
強い男の手だったから。
ドクターと過ごした日々は1年にもならなかったけれど、
その思い出はチョッパーの小さな体一杯に詰まっている。
笑ったり泣いたり喧嘩したり。
でも一緒に誕生日を祝ったことだけはなかった。
ドクターとの間で誕生日の話が出たのは一度だけだ。
不意に誕生日がいつかと聞かれた。
チョッパーにはドクターが何でそんなことを聞くのか解らなくて、
知っていたけど知らないと答えた。
“俺の誕生日聞いてどうすんの?”
“決まってんだろ、祝うのさ”
“なんで?”
“馬鹿チョッパー、嬉しいからじゃねえか”
“誰も嬉しいわけないじゃん、そんなの”
拗ねてるわけではない、本当にそう思うのだ。
親にすら疎まれた自分がこの世に生まれた日に何の意味があるのだろうか?
そう思っていたのに
“俺はおまえが生まれてきてくれて嬉しいぞ。それじゃだめか?”
ドクターはそう言っていつものように荒れた手でごしごしと頭を乱暴に撫でてくれた。
“へーん、ドクターなんかに教えてやらないよーだ”
目の前がぼやけてきたから慌てて擦り、そして思いっきりあかんべーをしてやった。
あんまり嬉しくて、ほかにどうして良いか分からなくなってしまったから。
あの時、あんなに早くドクターと別れることを知ってたなら。
きっと素直に誕生日教えてたのに。
そうしたらドクターとの大切な思い出がもう一つ増えていたのかもしれないのに。
ドクターのことを考えてたらまたぼやけてしまった目をごしごしと擦る。
今日は大好きなゾロの誕生日。
うんとうんとお祝いしてあげよう。
誰も明日のことなんてわからないんだから、今日できる精一杯のことをしよう。
自分がこれを仕上げたら、ウソップが立派な花火を作ってくれるだろう。
ゾロはそれを見てなんていうだろうか。
チョッパーありがとよ、なんていって抱き上げてくれるだろうか。
だったら嬉しいな。
全部回った方は甲板へ